2012年4月9日月曜日

副代表の大島幸男が、広報会議2012年5月号(宣伝会議発行)「広報実務入門」特集内でコメントしています。

ブランドアカデミー "傳"(でん) 副代表の大島幸男が、広報会議2012年5月号(宣伝会議発行)「広報実務入門」特集で、広報アドバイザーとしてコメントしています。

<< 大島副代表がコメントしている特集は、下記の通りです。 >>
▶基礎編「新任担当者に送る、これだけは押さえておくべき10箇条」p74〜p76
▶実践編「”第一歩”の悩みに答える、実践広報Q&A」p76〜p82
ぜひ、ご一読ください。

副代表、大島幸男の村田製作所におけるブランディング活動の集大成が紹介されました。

ブランドアカデミー "傳"(でん) 副代表、大島幸男の村田製作所におけるブランディング活動の集大成が紹介されました。


全3回の連載記事です。
< BtoB企業の広告・広報手法(1) BtoB企業広告は必要か? >
< BtoB企業の広告・広報手法(2) 広報の呪縛からの脱却 >
< BtoB企業の広告・広報手法(3) 8つの訴求要素と5つのステップ >

それぞれの記事にて、大島副代表のBtoB広報活動における知見の集大成をご覧頂けます。
ぜひご一読ください。

BtoB企業の広告・広報手法(3) 8つの訴求要素と5つのステップ

厳しい広告予算でも、訴求要素を明確にして、段階的なステップを踏むことで大きな効果が期待できる。ムラタはこの20年間の広告・広報活動で確実に成果を挙げた。
BtoB企業の積極的な広告・広報活動の先駆者的な存在である、株式会社村田製作所 <6981> 。しかし、消費者にモノを売るために広告展開をするBtoC企業とは違い、BtoB企業の同社では広告に掛けられる予算は限られている。

「1989年当時で3000万円。今でもわずか3億円の予算しかありません。BtoCのようにテレビコマーシャルなどを頻繁に打つのは不可能です」と、同社の広報部部長の大島幸男氏は言う。「ですから、BtoB企業の広報広告展開では、限られた予算の中でいかにインパクトのある効果的な広告を出せるかが課題となります。その為にまず弊社が行ったことは、企業広告の訴求要素を絞り込むことでした」

大島氏は、次の8つの訴求要素を項目別に絞り込んで検討し、明確にした。1「目的」、2「対象者」、3「地域」、4「媒体」、5「時期」、6「手法」、7「内容」、8「到達目標の設定」

まず、広告を出す「目的」。ムラタではこれを一貫して「優秀な人材確保のため」とした。今後の企業の発展のためには優秀な人材が必須。そのために、村田製作所を有名企業にするというわけだ。すると、「対象者」もおのずと就職時期の学生、そしてその家族へと絞られてくる。

「訴求地域」の絞り込みも重要だ。莫大な予算を必要とするテレビCMなどはとくに、宣伝をする必要のある地域を厳選する必要がある。最も学生が多くいて知名度が低い場所。
費用対効果が高く、多様性の確保が望める場所。ムラタは地元の京都や大阪、その周辺地区では知名度があったので、関東方面に力を入れた。また、広告「媒体」は新聞の番組表が乗っているラテ欄を利用した。ラテ欄ならば、記事の内容にかかわらず、また学生だけでなく家族の目にも留まる機会が多く望めるからだ。

広告を出す「時期」は、12月~1月に絞り込んだ。この時期は、訴求対象者である就職時期の学生が企業を強く意識する時期。そして、その「手法」としては、テレビスポット中心に行い、新聞広告のイメージとも連動させ、イメージの統一を図った。「内容」も専門的なことは説明せず、村田製作所の存在と社名、ロゴマーク、業種、業態をはっきりとすることだけに努め、製品に対する深い理解までは求めない。また、対象者が学生であることから、具体的かつシンプルで、印象深く、好感が持てるメッセージとビジュアルであるように徹底した。

「訴求要素を絞り込んだら、次は広告展開を具体的に5つのステップに分けて段階的に実行していきました」と大島氏。

最初のステップは、「村田製作所」の知名度を浸透させることだった。

91年、「村田製作所は なにを セイサクしているんだろう ムラタセイサクショ」という広告を制作した。電光掲示板に文字だけが光っているような、極めてシンプルな広告。これまでの企業広告とは異質であったがゆえに、社内的に疑問や批判もあったが、トップである社長の固い決意とバックアップを得て発表に至った。その結果、日経イメージ調査で、90年には42.5%であった知名度が93年には77.9%にまで急伸した。
また、会社訪問資料請求も、なんとそれまでの10倍にも急増したのだ。

次のステップは「認知度の形成」だ。

同社では「村田製作所は、中のことをやっています。」(93~94年)、「ナカハムラタデスカ?」(94~95年)、「そとはピーなかはムラタ。」(95~96年)といったキャッチコピーの奇抜な広告を次々と発表し、セット(機器)の中にあるムラタの存在と働きをイメージ付けることに成功した。

3つめのステップは「親しみ」の向上だ。携帯電話やパソコンの中から、それを使う女性を、あたかも中の部品が見つめているようなアングルの写真に「恋する部品製作所」というキャッチコピーの広告を発表した(98~99年)。そこにカタイ企業イメージは微塵も感じられず、ドラマティックな情景すら浮かび、親しみが湧いてくる。この広告で同社は一気に認知度と好感を得た。

4つめのステップは、認知度を高めた上で、技術志向の「企業姿勢・主張」を明確に訴え、就職意向につながる「一流評価」を得ることだ。

そして5つめのステップでは、企業哲学に基づく同社のCSR活動をアピールすることによる一流評価の向上を図る。これには、同社のイメージキャラクター的な存在でもある「ムラタセイサク君」が大きく貢献している。自転車に乗った白いロボット「ムラタセイサク君」はテレビCMや広告の中だけでなく、実際に地方の学校などに出張して、子どもたちの前でデモンストレーションを行なっている。CSRとしては「少子化社会の理科離れへの警鐘と企業貢献」「子供の時代から理科への関心を高める」ということが挙げられ、また具体的な利益としては、商品力や生産技術力のアピールはもとより、子供時代からのファンを作ることで、将来の優秀な社員を期待したり、シンボルを作成することによって社内の喜びを喚起している。

これら、8つの訴求項目の絞り込みと、5つのステップの段階的な広告広報戦略によって、村田製作所の知名度と認知度、そして企業イメージは格段に向上した。

2009年の日経イメージ調査では、1200社の調査対象中、「将来性」が30位、「研究開発」33位、「技術力」14位、「よい広告活動をしている」のイメージ評価も54位という抜群の評価を得るまでになっている。ちなみに「広告活動」の順位は、BtoC企業の大手、パナソニックと同順位。わずか3億円の広告予算で展開するBtoB企業としては驚異的な順位といえよう。(編集担当:藤原伊織)


BtoB企業の広告・広報手法(2) 広報の呪縛からの脱却

村田製作所広報部部長・大島幸男氏は「広告に製品と説明は必須」という一種の呪縛に気付き、画期的な企業広告を次々と発表してきた。
株式会社村田製作所 <6981> の広報部部長・大島幸男氏が広報部に配属された1980年代当時、技術力の評価は高くBtoB企業からの信頼も厚い優良企業である一方、社会的な知名度は低かった。学生にとっての一流企業とは取引内容云々よりも一般的な「知名度」でしかない。一般的な知名度が低いことだけで、才能ある学生の確保が困難となり、将来的な発展性に危機感を抱いた村田製作所は、広告・広報活動に力を入れはじめる。当時の広報担当に与えられた使命はただ一つ「村田製作所を有名にせよ」ということだった。


当時の広告予算はわずか3000万円。その限られた枠の中で出来ることは、広報展開の強化だった。マスコミに対して積極的に情報を発信し、専門誌だけでなく一般紙にも積極的にアプローチした。また、海外工場見学会など、魅力のある取材機会の提供にも力を入れた。こういった広報活動により、ムラタの掲載記事件数は大幅に上がった。ところが……


あろうことか、掲載記事件数の増加と反比例して、ムラタのイメージは低下してしまった。その理由は単純。内容が難し過ぎたのだ。記事の内容が専門的すぎることと、一般消費者には直接関係のない製品情報ばかりだったので、ターゲットに届かなかったのだ。

「記事が多くの紙面に掲載されることと、一般社会に認識されることは別。相手は学者や専門家ではありません。製品の説明や利点などをくどくどと書くのは、こちら側の自己満足なだけで終わることもあるのです」と大島氏は言う。

「広告に製品と説明は必須」という一種の呪縛に気付いた大島氏は、89年、これまでの企業広告とは一線を画した画期的な企業広告を発表する。
それは、京都駅の新幹線の風防に取り付けた駅看板だった。同社にとって唯一の企業広告であった。砂漠の真ん中にカジュアルな格好をした若い女性が一人。背中にはパラボナアンテナとノートパソコンを背負い、手には携帯電話を持っている。難しい製品や部品の説明などは一切無く、ただ「コミュニケーション企業―ムラタ」とあり、その横に「人・旅・夢。」というキャッチコピーが大きく書かれてあるだけのシンプルなものだった。

「たとえ砂漠にいても、携帯やパソコンがあれば誰かとつながっていられる……そんなイメージで、今後発展するであろうエレクトロニクス業界を連想させる。目的をそれだけに絞り込んだのです」と大島氏。確かに、20年前の広告とは思えないほどシンプルで且つ現在の我々の生活まで予測したような広告である。この広告を見れば、当時の若い世代ならとくに、未来を想像して胸を躍らせたことだろう。社内的な評価も高く、当時の若手社員も「これから村田は変わると予感した」と感想を残している。

この広告をきっかけにムラタは「広告に製品と部品の説明は必須」という呪縛から脱却することに成功し、その後のムラタの広報を変えた記念碑的な広告となった。(編集担当:藤原伊織)



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BtoB企業の広告・広報手法(1) BtoB企業広告は必要か?

BtoB企業の広告活動の先駆者的な村田製作所。昨年末の新作CMは、電子基盤の上で青い小人たちがコミカルな会話を繰り広げる、不思議で暖かいイメージのCMだ。
年末年始の期間、テレビや新聞などを見ていると、いつもとは違ったCMや広告を目にすることが多い。普段からよく見かける商品やスポンサーのお正月バージョンのCMもさることながら、ことさら目をひくのは「何を売っているのかよく分からない」企業広告だ。

「何を売っているのかよく分からない」と言ってしまっては語弊があるかも知れないが、それもそのはず、これらの広告を展開している企業の多くは普段、一般消費者向けの商品を扱っているのではなく、対企業間取引を主としている、いわゆる「BtoB」企業。エンドユーザーが実際に手にする商品ではなく、その商品を作るための材料や原料、またはそれに必要なサービスなどを企業に向けて提供するのが主な業務なので、一般消費者が「何を売っているのかよく分からない」と思うのも当然のこと。

ならば何故、そんなBtoB企業が予算をかけて、一般消費者に向けたテレビCMや広告を展開しているのだろう。「この商品を買ってください」「新製品が出ました」などの一般消費者へのメッセージがハッキリとした、いわゆる「BtoC」企業の商品広告ではない、BtoBの企業広告の目的は何か。そもそも、BtoB企業にとって一般消費者に向けた広告や広報活動は必要なのだろうか。

BtoB企業としては早くから一般消費者に向けて広告・広報活動を積極的に展開してきた会社がある。株式会社村田製作所 <6981> だ。

村田製作所といえば、自転車型ロボット「ムラタセイサク君」が思い浮かぶ人も多いだろう。愛らしいフォルムのムラタセイサク君がテレビCMに登場するや話題となり、村田製作所の名前も多くの人に認知されるようになった。

そして昨年末、同社はまた注目度の高いテレビCMを発表して話題を呼んだ。電子部品の基盤の上で、青づくめの衣装に身を包んだ三体の人形が「自分さがし」や「見た目と中身」などについて話をしている。その不思議でコミカルな内容が、最先端の電子部品メーカーのCMなのに、ほのぼのと人間味に溢れる暖かさと親しみが感じられる。

そこで今回は、BtoB企業の広告・広報活動の必要性と目的について、村田製作所広報部部長・大島幸男氏に話を聞いた。

「確かに“BtoB企業に広告や広報は必要ない”という意見も、会社によっては、未だに根強くあるようです」と大島氏。かくいう村田製作所も、氏が広報担当に就任した1989年当時は、年間の広告予算が3000万円しか付かず、莫大な予算が掛かるテレビCMなどはもっての外だった。村田製作所は、一般社会へ直接モノを売らない典型的なBtoB企業。一般消費者に向けていくらアピールしたところで、直接の利益には結びつかない。村田製作所は、「商品」ではなく「技術」を売る会社。社会的ブランドの構築や、広報宣伝活動に対する意識が薄かったのも当然といえよう。

大島氏いわく、「BtoB企業に特別な広報広告活動は不要」とする意見の理由の多くは次の6つのポイントに集約されるという。

(1)商品ブランドはターゲット市場で既に確立している。(2)一般社会への企業ブランド構築活動は売上・利益に結びつかない。(3)リクルート面では、派手な広告につられて来るような浮わついた人材はいらない。(4)社員の満足面でも、しっかりした経営をしていれば、社会的な認知度が低くても問題はない。(5)得意先対策、社会対策として余計な負担が要らないので、隠れた優良企業である方が都合が良い。(6)コストの回収ができない。

これらの意見に対して、大島氏はこう反論する。
「まず、多数の企業の中で「当社を知っているだろう」という考えは思い上がり。既存の市場だけでなく、新規市場を開拓するためには広報・広告活動は必須です。BtoBという企業の性質上、特定の市場に特化しています。技術革新による市場の突然の変化に対応し、チャンスを逃がさない為にも広報活動を行って社会的な認知を広める必要があります。また、今後の少子化時代に備え、より優秀な人材確保の面でも、ブランド志向に対応していかなくてはならないでしょう。さらに、既存の社員や家族に対しても満足度を高めることになり、社内の活性化にもつながります。良い会社であればこそ、自社の存在を広くアピールし、就職のチャンスを進んで拡大し、優れた社員確保に努め、優れた商品を提供し、発展し、株主や社会に貢献するべきです」

実際、村田製作所が広報活動を積極的に行う以前の89年~90年頃、日経イメージ調査によると、調査対象1200社の中での同社の評価は「一流評価」「就職意向」「認知度」ともに800位以下という燦々たる結果だった。しかし、広告展開をはじめてわずか2年後の92年には、就職意向は400位台、一流評価も500位台に浮上し、2007年には就職意向は156位、翌08年の一流評価は199位にまで躍進している。

直接の利益に結びつかなくても、BtoB企業が広告・広報活動を行うことには大きな意味があるようだ。(編集担当:藤原伊織)



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